後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第12章 変われない
そんなわけないのに。
「私は葉川くんとは何も──…ッ」
何も
何も、ない
「……!」
「……季里?」
「……ぁ」
開いたままの口が停止する。
目を細めた啓輔と視線が合ってなお、私の舌は次の言葉を続けることができなかった。
葉川くんとは何もない。そんなふうに言い切れない。
──当たり前だ。
彼の家で…夜の事務所で…昼間の車内で…
私たちは──もう、何度も。
“ 言葉が見つからない… ”
固まった口のまま、私はゆっくりと視線だけを下ろした。
啓輔のネクタイがあって、机の上には揚げ物だらけの皿──
視界には入ってきたけれど、私はそれらを見ていない。
まるでそれらの手前には薄くて透明なテーブルクロスが張られていて……そこに映し出された事実が、水面のようにゆらゆらと見え隠れしている。
その事実は私を惑わす──。
頭に回ったアルコールと一緒になって、私から冷静さを剥ぎ取っていく。