後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第12章 変われない
私は驚きに打たれ、彼の胸板を強く押した。
しかし葉川くんは私を離さなかった。
“ 何を泣いてるのよ…!? ”
涙なんて何年ぶりだろう。
映画やドラマに感情移入しなければ、仕事の失敗も引きずらない私は、泣くという行為とそうそう縁がなかった。
啓輔にフラれた夜だって……涙なんて全く……。
それが何故、今──?
「き、君との衝突で驚いたから…っ…勝手に出てきただけ…」
「いいえ違いますよ。僕がぶつかる前から先輩は泣いていました」
「そんなわけ、ない」
泣いていると言っても、聞かされるまで気付かないくらいの涙だ。
目尻から頬へと線をつくるその水滴を誤魔化そうと、苦し紛れな言葉を吐く。
彼に理由なんて話したくない。
そもそも…私自身が理由を知らない。