後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第20章 貴女が涙を流すなら
ところが、だ。
後ろから葉川くんに呼び止められて私は瞬時に振り返った。
そして、この瞬間に彼のほうを向いたのは私だけじゃなくて──。
「季里さん、また一緒にランチに出掛けましょうね」
「……っ」
「次は僕に店を選ばせて下さい」
今の葉川くんは四人分の視線を一身に集めていた。
私と穂花、バイトくんに…藤堂さん。
作業の手を止めて葉川くんを見ている。
普通、これだけの視線にさらされれば少しは怯みそうだが、葉川くんは飄々( ヒョウヒョウ )としていた。
「駄目ですか? 季里、さん」
「だ……ダメじゃないけど」
「嬉しいです」
ダメではないけれど
けど、ちょっと待て
どうして……急に " 季里さん " になった!?
職場ではいつも " 先輩 " だったじゃないの!
「では店選びの参考にしたいので、季里さんの食べ物の好みを後で教えてほしいです」
「わかったから、……その、葉川くん? ちょっと冷静になってみようか」
「僕はいたって冷静ですが」
何なのこの茶番劇。
おもむろに顔を前に戻すと、私と目があったバイトくんが撃たれたウサギのような素早さで手持ちの作業を再開した。