後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第20章 貴女が涙を流すなら
「それで…っ、何の用?」
「…怒っていますか」
「……。怒っては、いないわ」
引き止められた私は素っ気ない態度を貫く。
声が裏返りそうになるのはなんとかこらえていた。
彼の問いには答えるけれど、自分から喋ろうとはしない。
だから、怒っているのかという質問に対して、そうでないことだけを端的に伝えた。
この気持ちは怒りとは違うから…。
そうでなければ、こうやって人目もはばからず、いい歳の大人が涙なんて流さない…でしょう?
「怒っていないなら……どうして僕の方を見てくれないのですか? 何故、顔を見せてもらえないのでしょうか」
「……」
“ …決まりきったことを聞くのね ”
いつまでも背中を向けたままでは、いよいよ私の声は雨音に邪魔されて彼の耳に届かないだろう。
仕方なく、私はそっと振り返った。
顔は下に向けたまま…彼とは目を合わせずに。