後輩くんの挑戦状 ~僕に惚れてもらいます~
第5章 カラダから始まる
私はドアを閉めるのを諦めて運転席へ戻った。
車の前を横切ろうとする私を──
「先輩」
彼が、呼び止める。
「……何」
「先輩はこれから事務所ですか?」
私は警戒心丸出しの表情で、足を止めて振り返っていた。
「ええ…、車を返さないといけないし。事務所からは電車で帰るわ」
「車を戻すのは、べつに今日じゃなくても大丈夫ですよね」
「…私のマンションには駐車スペースがないのよ」
「……僕の、マンションなら」
「……っ」
彼はまだ、ドアを閉めない。
それは…このまま発車なんてさせないというメッセージだろうか。
「──…ここのマンションなら、来客用のスペースがいくつか空いていますよ」
「──…」
「明日は土曜ですし。……どうですか」
止まった車の、前と横──
二メートルの間隔を置いて、私達は互いの顔を凝視した。