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Deep Night《R18版》

第7章 Tiger


ーーキキッとブレーキを踏み込む音が耳を掠めた。

目の前で母親がトラックに跳ねられた。

綺麗に宙を舞う身体が地面に叩きつけられると、鈍い音を立ててぐちゃぐちゃになった。

後続車に轢かれて潰れた母親の身体は、真っ赤に染まって血の海に沈む。

「母さん」

今日は泣きすぎた。
そのせいでもう涙も枯れた。

「母さん」

返事のない母親を見つめる帳に、通行人が声を掛けるがその声すら聞こえない。

父親だけならまだしも、母親まで亡くすなんて。

望みは絶たれた。
もう他に術はない。

「お兄ちゃん」と妹の声を思い出しながらその場を離れた。

どこに行く宛てもないのに、向かった先は店の前だった。

俺が何でもするから。
命もくれてやるから。

だからどうか妹だけは真っ当な世界で生きていけるようにしてほしい。

それを口に出して頼んだのか、正確な事は覚えてない。

ただ気づいた時には、男が嘲笑うように帳を見下していた。

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