テキストサイズ

Deep Night《R18版》

第9章 ムツミ

ムツミはニーナの太客の男に全てを掛けた。

一世一代のギャンブルで自分に運が向いてきたのはあの客に会ってからだ。

それまでミヨコに言われなきゃ、いつも通りの仕事だけをして無駄な会話はしなかっただろう。

今まで黙ってた自分の客のことを話してまだ憶測でしかないことを交えて今後を語る。

「ニーナが売られる日、ここを出て行く時にあたしが従業員に“お別れ”出来るように頼む。もしそれが叶ったらアンタはニーナを連れて逃げるんだよ」

無茶苦茶だと思う。

そんなの上手く行くわけないって9割思ってる。

だけどせっかく掴んだチャンスだ。

自分の予想でしかないが、あの男はニーナを買いに来る。

どういう風に売られるか分からないけど、落とせば迎えに来る。そのまま任せてもよかったけど、自分達の命は助からない。

ニーナさえ助かればなんて、聖人君子を語れるほど器もデカくなけりゃ善人でもない。

ただ偽善者にはなりたくない。

それでもミヨコ以外の女を助けるほどの余裕はないから連れて行けるのは1人だけ。

確実に助かるニーナを除いてミヨコだけはどうにかしてでも生かしてやりたい。

明日で全てが決まる。

自分の客はあの男と繋がってるはずだと踏んでいるムツミは、この際警察でもヤクザでもなんだっていいと思えた。

必要なお金と権力さえ持っていれば他に望まない。

眠るニーナの額に自分の額をくっつけ柄にもなく神に縋った。

「どうかこの子に幸せな人生を与えてやってくれ」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ