Deep Night《R18版》
第2章 No.217
鎖を付けて鍵を掛けるその背中を見下ろしながら「我慢」と小声に呟き、隠していた銀色のナイフを男の背中に振り下ろした。
しっかりと目を見開いて背中に埋まっていく銀色のナイフを見つめた。鈍く突き刺さるナイフから手に伝わる感触が生々しく、フォークでパンを刺す感覚よりも硬かった。
力を込めないと刺さらない。
ニーナの力では一思いに突き刺すことは困難だった。
「テメッ……くそがっ!!!」
男の顔を見ればすごく痛いんだと自分も痛みを感じたように顔を歪める。
血が出るのが一番痛いことはニーナも知っていた。どれだけ痛く辛いか、泣きたくなるか死にたくなることか。
その痛みを平気で誰かに向ける男にふつふつと怒りが込み上げた。
「いつも痛いのしてくるからお返しだよ」
「クソ女がっ!!調子にっ!乗るなぁぁぁっ!!!」
絶対に痛いはずなのに男は鬼の形相でニーナの足を引っ張り床に張り倒す。
「っぅッ!」
ゴンッと頭を打ちつけ視界がゆらゆら揺れる中男がニーナを見下してナイフを持っていた手を踏みつける。靴底がニーナの指を折り畳むように何度も踏みつけ潰すように床に擦りつける。
「痛いっ、やだ痛いっ!!」
ちゃんと刺したはずなのに、痛いはずなのにどうして動けるのか分からない。
何度も何度も足で踏みつけられ横面を蹴飛ばされ男よりも痛い思いしてるんじゃないかってくらい痛くて辛くてニーナは喚くように泣き叫んだ。
「なにしてんだ!!?」
ニーナの叫び声に異変を感じた他の男がドア代わりに隔てられた布を引きちぎる勢いで飛び込んできた。
「っ離せ!」
「落ち着け!!」
男を羽交い絞めにして止める別の男がニーナを見て顔を歪める。
「このメス豚ぶっ殺してやる!」
ぐちゃぐちゃに泣きながら真っ赤な世界に染まった視界にニーナはプツリと深い夜に飲まれるように意識を失った。
――早く迎えに来てくれればいいのに、と途絶える意識の中で帳を求めた。