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じゃん・けん・ぽん!!

第12章 探し物はどこですか?­

【探し物はどこですか】

 簡単なことなのに――きっと池田裕子はそう思っているだろう。
 そのくらいのことは馬淵学にも分かる。
 借りたノートを返す。それだけのことだ。できないはずがない。
 なのに、それが、今の学にはできない。
 紛失してしまったからだ。
 借りたものをなくしたのだから、貸主の裕子に対して、申し訳ない気持ちはもちろんある。が、それ以上に、学は恐怖を感じていた。

 それじゃ、もし明日返さなかったら、全裸で校内一周してよね――。

 裕子が突きつけてきたそんな条件を――勢いで押し切られたとはいえ――受け入れてしまったからだ。
 ノートを返すか、もしくは全裸で校内を歩くか――。
 選択肢はその二つしかない。
 ――どんな二択だよ。
 そう思う。
 もちろんノートを返す方が好ましい。だから目いっぱい探すべきなのだが、ノートのありそうな場所は、すべて探し終えている。部室も教室も家の自室も便所も――。
 ――もう〝脱ぐ〟しかないのか。
 図書館から出た学は、憂鬱を吐き出すかのように溜息をついた。その時――。

「先輩」

 声をかけられた。
 振り向くと、さっきの小生意気な後輩が背後に立っていた。名前は西岡晃仁と言っただろうか。いかにも純粋そうな見た目とは裏腹に、かなり容赦のない考えを巡らせることができるらしい。
 さっき図書室で殴る寸前までいったというのに、よくもこう平気で話しかけてきたものだと思う。それが、学として図々しく思えてならなかった。
「なんだよ」
 と学は答えた。一応立ち止まり、晃仁に応じる。すでに放課後で、西日が廊下を赤く染めている。
 蝉が今とばかりに鳴いている。かなりの音量だが、その蝉時雨に負けないくらいに、廊下もまた煩かった。
 対立しているのだ。空調設置派と下駄箱交換派の連中が。
 学が聞く限り、その対立は決して真剣なものではないように思う。なぜなら、言い合う声に混じって、時折笑い声が聞こえるからだ。もしかしたら、どの生徒も半ばお祭気分で言い争っているのではないかと思える。
 そんな連中を横目に見ながら、
「で、なんだよ」
 と学は、ふたたび晃仁に問いかけた。気分が鬱いでいるせいで身体に力が入らない。学は気だるさを感じながら、背中から壁に寄りかかった。晃仁もそれに倣うかのように、学の横に並んで、背中を壁に預ける。

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