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幕末へ飛べ!歴史を修正せよ

第5章 人違いどうする?錯綜

「顔だちでしょうか?」
「うん…。それもある。卿さまは徳川の血筋らしく、顎(あご)先が細く面長(おもなが)であられた。あの御仁は面長ではあるが、丸みを帯びておる」
「江戸での美食のためかもしれません」
「うん…そうかもしれない。だが」

水野は、さらに疑いを募らせた。
「仮にそうだとしても、あの御仁のふんいきがどうも違うのだ。卿さまは幼い頃から賢かったが、普通の賢さではなかった。さすが高貴の生まれといえようか、賢さに加え、無類(むるい)の怖がりでもあった。卿さまはわしを見て物陰に半身を隠し、こちらの様子を伺うような御仁じゃった。あの正面に座っておる(敬語を外した。話しているうちに疑いが確信に変わったよう)御仁は、非常に快活明朗、賢さが滲み出ておる。そこが、違うのだ」

水野の話の内容の報告を受け、自分佐助、斜め前の小次郎ぎみは、凍りついた。
小次郎ぎみはノーテンキだから平静だったが、怖がりの自分佐助は、冷や汗どころか、大量の汗がカラダのあちこちから噴き出してきた。

水野が話を続けた。
「ところで牧野、あの後ろに控えておる従者をどう思う?」
下を向いて押し黙っていた用人牧野は、今度はひどく明るい表情で主人に対した。
「卿さま…ですねっ!」

この会話の報告が急報されてきた。思わぬ展開に、自分佐助も小次郎ぎみも、唖然。

「かの者、顔だちが幼かりし卿さまに瓜二つじゃ。顎先の細さ、面長と紛れもなく徳川のお血筋に違いない」
牧野が、うなずいた。
「顔だちもそうだが、何よりふんいきだ。かの御仁は、うつむき加減ではあるが、先ほどからせわしく室内の調度や仕様を鋭い目付きで観察しておる」
「用心深さですね」
「そう…。見ていると、少し怖がりの感じが見受けられる。それでいて、さて知性の輝きも垣間(かいま)見える。卿さまであろう。牧野は話しておるな、どうだった?」
「一言一言、言葉を選んで話しておられました」
「うん、うん。高貴の生まれから自然に身についた発言の慎重さであろう。貴人は、自分の一言が天下を左右することを自覚しているものだ」

報告が来た。
自分佐助と小次郎ぎみを取り違えている?自分佐助が従者に身をやつして、用心深く振る舞っていると思われたことが分かった。
さあ、どうするか?

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