テキストサイズ

妖魔の憂鬱

第4章 朝田 章市(あさだ しょういち)

「ご用意も何も…」

相変わらず、優月の後ろ姿を舐めるように見ていた章市は気付いてしまった。優月の纏め上げられた髪から、一筋の後れ毛が首もとを滑って居る事に…。

章市は月明かりに照らし出される、その白く細い首から目が放せない。とうとう引き寄せられる様に歩みを進め、優月の両肩の縁にそっと手を乗せた章市。少しうつ向き気味だった優月は、ハッと息を吸いピクリッと背筋を伸ばした。

章市には優月の後れ毛が、彼女の隙に見えた。自分だけが見つけた唯一の隙。その一筋の隙を、この手でこじ開けて…押し入りたい。

章市は中指の腹でうなじに触れ、優月の後れ毛と首をなぞった。そのまま肩を…まるで大きな鳥が止まったかの様に掴んだ。逆の手で、優月の髪を留めている大きなクリップを緩め、章市は長い髪がしなやかに揺れ落ちるのを眺めていた。

フワリと落ちきった髪からは、異も言われぬ魅力が漏れ、章市は優月の髪に顔を埋めた。そして、その甘やかな香りに章市はハアハァと吸い込まれていく。

日が落ちるまでは、まだまだ夏の暑さが残るこの季節。優月の纏められていた髪の毛は、しっとりと汗を蓄えていた。優月の汗は、微量なれどもサキュパスの体液。それを思いっきり吸い込んだ章市は、ますますタガが外れた。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ