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妖魔の憂鬱

第7章  

力説する火月夜に対して、黒羽には事の良し悪しが分からない様子だった。

さっきまでは平気で社が消える話をしていた火月夜が、今度は何やら重々しく語っている事に、黒羽は違和感を感じ取っていた。なにしろ、会った事もない子の命をどうこう言われても…黒羽にとっては、どうでも良かった。そんな事よりも今は、社が消えてしまう事実の方が大問題なのだ。

「ふーん…
まぁ良いゃんじゃ早いとこナンチャラって木に火を点けよぅ!急がなきゃ!」

当然の様に火月夜を急かす黒羽だが、火月夜は動こうとはしなかった。

同じ種族の母胎樹でも、他人の物を探し出すと言う事は、例え完全体の火月夜であろうと、そう容易な事では無いのだ。斬り倒される危険性や、勝手に使われる事を少しでも減らすために、母胎樹は見付かりにくい場所にヒッソリと根を張るのが常識なのである。

それに長からの依頼でも無いのに、誰かを助けたり…ましてや子殺しなどしたい訳もない。

そもそも旅ともなれば…移動しながらの餌の確保や宿の手配は、至極めんどくさい事この上無い。

それに…。

「待て待て!
誰が一緒に行くと言った?」

火月夜の反応を見て、黒羽の表情から明るさが消えていく。


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