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妖魔の憂鬱

第7章  

黒羽は自分の命を守るために、他人に頼る事を…他人に種着する事を封印して生きて来た。

火月夜の顔が壱星に似ているせいか…自分で思っている以上に、黒羽は初対面の火月夜に心を開いていた。今更他人を頼ろうとした事に「ハッ」と息を呑んだ黒羽は、一度悔しそうにキュッと結んだ唇をゆっくり開いた。

「そう言えば…
そうだね。おじさんには頼まないよ」

そこには、さっきまでの可愛らしい少年は居なかった。黒羽の顔からは表情が消えている。生死の境目で生きる本物のヴァンパイアの様に、儚げに見えた黒羽に…火月夜は少なからず動揺した。

黒羽は大きな羽の有る獣に変身して、背中に社を乗せると…追跡を避けるために凄いスピードで大空高く舞い上がり、人間の目には見えなくなる高さまで行くと、その場を飛び去った。

黒羽を見送った火月夜は、その場からスーッと色を消す様に姿を消した。



黒羽と社は一旦あの日の舞台である、丘の上の古城の南に有る森まで戻ってきた。古城の中庭から飛び去った母胎樹の種が、真っ直ぐ南に飛んで行くのを黒羽が見ていたからだ。

黒羽達は夜に成るまで、目立ちすぎて飛んで移動し続ける事は出来ない。それに日光の下で、社を運ぶほどの力を使い続けることも、黒羽には困難だった。

長距離移動出来ない昼間は、使われていない小屋や倉を見つけては社を隠した。独りになった黒羽は獣の生き血を吸いに…母胎樹を探しに出掛けた。


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