悪魔の誘惑
第6章 優しい彼氏と言えない彼女
車を走らせて10分。
レンガ造りのイタリアンなお店に二人で入る。
天井から丸い照明が、茶色いタイルの床や木製のテーブルをぼんやりと照らす中、二人は店の奥まったテーブル席に通された。
店員が水の入ったグラスとおしぼり、メニューを置いて立ち去る。
二人は早速何を食べようかと思案したが、結局二人とも同じトマトパスタのセットを注文した。
トマトパスタの他に、シーザーサラダと、オニオンスープ、デザートにはミントが乗ったチョコムースケーキが出され、紅茶かコーヒーのドリンクも付いてくる。
それで1080円というリーズナブルな価格で食べられるのだから、驚きであある。
「トマトめっちゃ濃厚!美味しい!」
水野は、フォークをクルクル回しながら、上品にパスタを口に運んで咀嚼する。
「パスタ久しぶりに食ったかも(笑)」
健人は、残り少ないグラスの水に口をつけてからそう言った。
「あれ?食べ終わるの早くない?(笑)」
「俺は結構早食いだよ(笑)」
「そうだっけ?気がつかなかった(笑)ごめん、今食べ終えるから(笑)」
「いや、ゆっくりでいいよ(笑)」
「待って、すぐ食べるから。」
そう言って、水野は食べるスピードを早めた途端、噎せたのかゴホゴホと咳払いを数回した。
「大丈夫か?(笑)」
水野に対する気遣いの言葉をかけながらも、健人を笑いを隠しきれてない様子だった。
「笑わないでよ。」
「笑ってねえよ(笑)」
そう言って口元を抑える健人に向かって、水野はプウと頬を膨らませる。
「....。ハムスターみたいだな。」
健人は人差し指で水野の片方の頬をぷすぷすと押していた。
水野は何かを訴えたいのか、無抵抗のまま両頬を膨らまし続けている。
やがて健人は面白くなったのか、水野の両方の頬を包み込むように片手を添えて強く押すと、ブスッという破裂音がした。
「あ、悪い悪い(笑)」
「もう、やだぁ(笑)」
二人はゲラゲラと笑い声をあげた。