悪魔の誘惑
第6章 優しい彼氏と言えない彼女
「こんにちは。もし今日都合が良ければ夜に会いたいんだけど、大丈夫?」
学校の昼休憩の際、水野はラインで唐突すぎる約束を恋人の健人に送る。
すると、ものの5分で既読が付き、「全然OK。終わったら学校の駐車場で待ってる」という一言が、返ってきた。
「ありがとう。仕事頑張ってね。」と水野が返すと、健人から「そっちも頑張れよ」という返信が返ってきてその内容に思わず微笑んだ。
定時で仕事を片付け、そそくさと学校を出る。
広い駐車場に足を向けると、水野の見知った黒い軽自動車を発見し、運転席のフロントガラスの方に笑みを向けた。
するとその笑みに気がついた健人が助手席に回れよと親指で水野に合図を送る。
水野は助手席に回り、フロントドアを開ける。
「仕事、お疲れ様」
健人は水野に爽やかな笑みを向ける
「急にごめんね。忙しいのに(笑)」
水野は助手席に座ると、顔の前で両手を合わせて「ごめんね。」と謝った。
「そんな謝るなよ。それより夕飯何食べたい?」
健人は、未だに顔の前で合わせた両手を崩さない水野の頭を優しく撫でた。
「うーん....。パスタ(笑)」
水野は顎に指を当てて考える仕草を取ってから、ボソリと小さく呟いた。
「了解。」
健人は車のエンジンキーを回してエンジンを入れた。
「健人は何食べたかったの?」
「俺もパスタ食いたいから。」
「え、本当に?(笑)牛丼とか食べたかったんじゃないの?」
水野は笑いながら少し揶揄ったような口調で言った。
「ひぃん」
唐突に、健人から脇腹を突かれる。
「危ないから、シートベルトしろよ(笑)」
慌てて口元を押さえた水野を笑いながら、健人は口元を緩ませて言った。