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Nectar

第8章 理想と現実

静かな玄関に蓮からの着信を知らせるメロディーが鳴り響いた。

でも…

出る事ができなかった。

出たからってなんて言えば良いのか分からない。

しばらくすると音は止まって、画面を見ると蓮からの不在着信が数件入っていた。

蓮…

私どうしたら良い?

蓮の家族には認めてもらえなくて…

しかも逃げて帰って来ちゃったよ。


……



一通り泣くと自然に涙は止まり、呼吸も出来るようになった。

それでも私が玄関に座り込んでるのは…

来れるはずの無い蓮がこのドアを開けてくれるのを、どこかで期待してるから。

鳴らなくなった携帯…

もしかしたら、裕翔さんに話を聞いて、蓮もその通りだって思ったのかなって…

私なんて要らなくなったのかなって…

悪い方にしか考えられなかった。

真っ暗な玄関…

同じように私の心まで真っ暗だった。

蓮との終わりを考え出した頃、また着信音が鳴り響いた。

申し訳なさでいっぱいだった。

私がこんな私じゃなくて…

もっと綺麗で…最初から蓮一筋なら認めてもらえてた?

蓮に恥かかせずに済んだ?

【蓮ごめんね】

送信ボタンを押した瞬間にまた涙が溢れた。

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