あたしの好きな人
第8章 新しい生命
体を運ばれて、横にされたのが分かった。
意識はないのに、なんとなく分かる。
手術は終わったんだ。
暫く眠っていたのに、……急に吐き気をもよおして、慌てて立ち上がった。
床が天井がぐるぐる回り、体が鉛のように重く、思うように、動けない。
枕元に洗面器があり、そこで堪えきれずに吐いてしまった。
……胃液しかない。
倒れるように、布団に転がり、空気が揺れる気配がして、
清涼な風が入った。
「……大丈夫か、咲良!」
……岳人だ。
あたしの側に駆け寄る足音に、安心してしまう。
「……もう、麻酔も切れる頃ですし、帰られて大丈夫ですよ?」
部屋の外から看護師の声がして、岳人が、
「ああ!?……本当に大丈夫なんだろうな!?」
……怒鳴っていた。
部屋の外に出て、看護師さんと何やらぎゃあぎゃあ言っている。
説明をされて、いまいち納得してない様子で、また、部屋に入って来た。
あたしは、何とか立ち上がって、岳人と帰ろうと鞄を持とうとした。
何も言わずに岳人が荷物を持ち、病院を出た。