レンタル
第1章 嘘
今日のレンタル代を払っていないので、クチは私を裏切る。
「本当にいいの」
「うん。お願い」
今日は駄目だ。
本当に危険日だ。
居酒屋で隣になっただけの田舎者。
そんな子に人生を託せしたくない。
こんなことなら、ちゃんとクチに昼食をあげるべきだった。
酷い体臭と重く伸し掛かる豚の体。
汗が肌の隙間を埋める。
「キス、して」
「凄く積極的なんだね」
「ねぇ、早くんっ......みゅ......」
吐き気がする。
でも顔は幸せそうに笑っている。
相手には私が受け入れていると思われる。
こんなはずじゃなかった。
豚の脚毛が肌に擦れて、痛い。
キスしてるだけで鳥肌がたっている。
それに気づいた豚は、何を勘違いしたのか背中に腕を回してきた。
「ごめんね、気づかなくて。少し寒いよね」
「ありがとう。優しいんだね。高橋さんって」
呆然。
家畜の吐く淀んだ窒素と酸素が、綺麗な顔にかけ続けられる。
顔の相場が下がる音がした。
☆
「じゃ、俺明日仕事だから」
「うん。また、連絡するね」一生しねーよ、死ねよ人畜。
「気持ち良かったよ」
「私も」気持ち悪かったよ。
扉が閉まる。
豚が私にくれた金を一枚、口に放り込む。クチの返済が完了し、指揮権が私に戻ってきた。
「豚、あの豚絶対殺す」
声が出たことに涙が出た。自分の意思を声で出せることに、そんな当たり前すぎる事に泣いてしまった。
ごめんね、クチ。
もう絶対延滞したりしないからね。
美味しいものもあげるよ。
しゃべらせてあげるよ。
自由に呼吸もさせてあげるよ。
もう、嘘はつかせないからね。
汚れた金を握りしめ、私は残り時間がなくなるまで、声を出して泣いた。