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第1章 嘘
「殺したいほど憎まれて、初めて人生には幸せが訪れる」
「果たしてそうでしょうか」
「データもある。ルールもある。法則もある。法律すらある。否定の要素はどこにもない」
「例えばですよ、その結果誰かに殺されたとして、そこに幸せはあるんですか」
「何を言っているのか、さっぱり分からんな。死ぬことが幸せだろう」
「頭おかしいのか、いや、元からか」
吸いすぎて凹んだ紙パックが、綺麗な駅前に捨てられた。この人多分、マナーとか常識とかないんだろうな。
「見ろ、人が運ばれていくぞ」
「いや、話逸らさないで下さい」
「真実だ。見ろ、あそこだ」
「悪い事でもしたんじゃないですか。悪そうな顔してますし、太ってるし、髪はべったりしてるし、歩き方も変だし、気持ち悪いし」
「恐ろしい言葉を使うな。聞いてるだけで耳が腐敗する」
「先ほどの理論には概ね反対ですけど、死んだ方がいい人って沢山いると思いますよ。世の中には」
「私のことか」
「まぁランキング一桁には入ってますね」
「TOPは誰だ」
「錦戸さんですよ」
「理由を聞いても」
「罪が重すぎます。数多の言葉を知っている私でも、表現できないほどに」
「自分が馬鹿だと言っているように聞こえるが」
「耳が悪いですね。メンテナンスに出す事を強くお勧めしますよ。ほら、最近あるじゃないですか。体の一部を貸し借りしたりするアプリが」
「さっぱり分からんな」
「ほんと会話が出来ない人ですね」
「世俗には疎い」
「分かってるなら補填したらどうですか。毎日言ってるじゃないですか。調べてから分からないと言え、とか」
「勿論調べた。レンタルとはコクアニア社の開発したくだらない端末アプリだ。開発者はイーテマーヴ。年齢は36歳。アプリのダウンロード数は口コミで広がり、今はメディアがニュースで特集を組む有様だ。錯覚に過ぎないことに、人は何故夢中になるのか」
「錯覚でいいんですよ。視覚なんて所詮、錯覚に満ちているんですから」
「頭の悪そうな台詞だな」
「まぁ、私は頭が悪いので」
「褒めてない」
「褒められたと思ってませんよ。ジョークのセンスも皆無ですね、錦戸さんは」
「まぁな。ちなみに今褒められていないことは分かっている」
「クソダサいですよ」
「知っている」
「二乗します」
「平方根を取る」
