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レンタル

第1章 嘘


「はい。はい。体調不良です。ええ。一時頃には出勤できると思います。はい。よろしくお願い致します。失礼しま、あ、高橋です。はい。よろしくお願い致します。はーい、失礼します」



素晴らしい時代になった。


『レンタル』


アプリの説明文を見るに、おそらく海外の企業が翻訳アプリを使って開発したものだろう。

内容としては今流行の自己管理アプリ。詐欺かと思ったが本物だ。証拠はある。私だ。

もともと嘘が下手な私が、こうも簡単に会社を休むことができた。それに対する罪悪感も生まれない。

本来であれば延滞したクチは、制御不能の可能性があると注意書きにはあったが、我ながらうまくやったものである。つまりは逆転の発送方法だ。欠点を延滞し通常外の行動を起こさせる。自分でコントロールできる場所はアプリに登録しない。


天気は快晴。汗が気持ち悪いが、今日は休日だ。心は空のように晴れ渡っている。ビルの壁面の俳優の笑顔も、心なしか笑っているようだ。



「すみません。ただいまテロの抑止活動を行っておりまして、少々お時間を頂けませんか」
「はい、もちろんです」公僕は暇だな。
「これからどちらへ向かわれますか」
「家に帰るよ。今朝まで女を買って遊んでいたからね」駅に向かいます。



公僕の顔が歪む。私は今、なんと言った?



「すみません。少し詳しくお伺いしたいので、署までご同行願います」
「もちろんですとも」



待て。そうじゃない。



「どうかされましたか」
「元気ですよ。私は。一発抜いて来ましたから」
「はい、それは後でお伺いします」



脚で必死に踏ん張るが、警察の無言の圧力に屈してしまう。その上クチは肯定しているのだ。まずい。今すぐアプリでクチを解除しなければ。



『メンテナンス中〜18:00』



「いやぁ、警察に行くのは久しぶりだなぁ。四年ぶりくらいかな。お手柔らかに、お願いしますよ。はっはっは」
「はい。はい。後でお伺いしますから」



やめてくれ。頼む。


頼むから。

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