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『untitled』

第3章 一線を、越える

俺の言葉に『おかしかったですか?』なんて言いながら、スタイリングし終わった髪を色々な角度から覗き込む。

「いや……前にしてくれた雑誌の髪型が好評だったから、そっちの方がいいと思ってさ」

後輩に褒められて照れたなんて言えるはずもなく、適当な理由をつける。

「そうですか?この髪型のほうが二宮さんとのバランスもいいと思いますよ?」

「バランス?」

「二宮さんは可愛いですから」

「はぁ?」

後輩として可愛いってのはわからなくはない。

有難い事に俺の事を慕ってくれてもいる。

でも俺の想像している『可愛い』とスタイリストが想像している『可愛い』は違う気がする。

「きっと舞台に出れば嫌でもわかりますよ」

クスクス笑いながらメイク道具を広げていく。

どうやら俺の髪型の変更の件は採用されなかったらしい。

コンコン…

「おはようございます」

さっきとは打って変わってスーツをピシッと着こなしたニノが挨拶しながら入ってくる。

「髪型どうします?」

隣に座ったニノにスタイリストは髪を触りながら確認する。

「んー、お任せします」

前髪を指でちょんちょんしつつ、鏡越しにニコッとスタイリストに微笑んだ。

言われてみれば笑顔は可愛いかもしれない。

でも所詮は男だし……

「木村くん?」

「ん、どうした?」

「ずっと俺の顔を見てるから……なんかついてます?」

ペタペタと頬を触って確認する。

「あっ、いや……ニノって肌白いなって思ってさ」

可愛さを探してたなんて言えず、また適当な理由をつけた。

「まぁ、外でないっすからね。木村くんはいい色に焼けてますよね」

「サーフィンしてるからな。いい色だったら大野だって焼けてるだろ?」

「あれは黒すぎますって。この間もマネージャーに怒られてましたから」

クスッと笑うニノの手がなぜか俺の顔に伸びて来た。

「木村くんみたいにちゃんと手入れしなきゃダメですよ」

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