
夏夜の煙
第1章 1人で吸うか、2人で吸うか
W side
あんな風に頭を撫でられるのは久しぶりだった。
父さんも母さんも昔よくしてくれたな。
きゅ、と胸が締め付けられるように傷んで、それから逃げるようにタバコを取り出した。
カチ、とライターをつけたその時。
「なんだ、また吸ってんのかよ。」
ムスッとした可愛くない声がして。
その方向を見ると、顔までムスッとさせた潤が立っていた。
「悪い?」
んべ、と舌を出すと、
「悪いね。昨日もオレがせっかく奢ってやったコーラ置いていきやがって。」
そう言うと、その長い手で私のタバコを奪い取って口にした。
「うわー。潤、それいろんな女のコにしてんの?タラシじゃん。」
うげ、という顔をする私に、
「んなわけねぇじゃん…和奏にだけだよ…」
そう呆れたような複雑な顔で言った。
そうして、さっきまで先生がいた隣にどっかと座る。
そして私の顔を覗き込んで。
「ガッコ、来ねぇの?」
困ったように問いかけてきた。
「まーたその話?行かないってば。」
一瞬櫻井先生の顔がよぎるも、ぶんぶんと頭を振ってそれを隅っこにやる。
「ホントのホントに行く気ねぇの?」
「ないよ。」
長い睫毛に縁取られた射抜くような目を見つめ返して、そう答えると。
ふい、と急に前を向いて。
つん、と唇を尖らせて。
頬を少しだけ紅く染めて。
「じゃあ、さ。………ウチ来ねぇ?」
と、呟いた。
