
花と時計
第2章 高嶺の花の香り
熱を帯びた顔に彼の冷えた指先が心地よい。
私が顔をあげると、彼は人差し指を自分の唇にあてて、言った。
「じゃあさっきのは、二人だけの秘密にしよう」
誰かが言っていた。
夢咲聖は、手が届きそうで届かないところに咲く花のような人間だ。
それでも魅了されてしまうのは、薫る匂いさえ、美しいからなんだ、と。
その意味を、私は理解した。
高嶺の花が匂いたつのは、戯れなのかもしれない。
もしかしたら、その匂いは毒かもしれない。
それでもいいと思えるほど、私の頭は恍惚としていた。
秘密。
芳しい香りに、心の殻が、泥のように溶けていった。
