
花と時計
第8章 震える蕾
だけど、その呟きは、彼には届かなかった。
「そいつのこと考えるなら、俺のことも考えてほしい」
彼は私の肩から手を離す。
「それでよりこが決めたことなら、俺は応援するから」
苦しそうに深呼吸をして、目を伏せる。
「ずるいかもってかずるいんだけど」
つ、と私を窺う瞳の熱に、心の蕾が震える。
「待ってます」
言い終えた彼は、う、と、目を細め、私に背を向けた。
「じゃ、おやすみっ」
「あ!」
返事をする間もなく、彼は、帰路を走り去っていく。
あっという間に遠くなる背中を、私は見送るしかできなかった。
