
花と時計
第2章 高嶺の花の香り
寮まで案内するだけだと思っていたけれど、先輩は、学校の案内もしてくれた。
お気に入りの庭園。
まだ取り壊していない旧記念館。
寮への近道……。
学内マップには書いていないことも教えてくれて、気がつけば私は緊張を忘れて、先輩の話を楽しく聞いていた。
「で、ここが目的の女子寮です」
と、先輩が振り返り、私は頭を下げた。
「ありがとうございました。
あ、案内までして頂いて」
「ひとつ、聞いていい?」
唐突に真面目な顔で言われて、私はドキッとしながら頷いた。
「依子ちゃん、どうしてそんなに前髪を伸ばしてるの?」
「え」
私は思わず、前髪を触った。
どうしてかと尋ねられると、母の呪いのせいだけど、その話をするのは気が引け、言葉を選びながら、私は答えた。
「わ、私、ブスで顔を見せるわけにはいかないので、だから、その、隠しています」
「ふうん?」
ふと手が伸びてきて、私の前髪に触れた。
薄暗かった視界が急に開けて、明るくなる。
前髪を上げられたと気がついた時、先輩の顔がすぐ近くにあった。
「なんだ、全然きれいだよ。
隠してるのもったいない」
かあっと顔が熱くなった。
「だ、だだ、だめです!」
私は首を振り、先輩の手を振り払うと、必死に前髪を手ですいて、顔を隠した。
「そんなにいや?」
私は何度も頷く。
「ごめん」
先輩は謝りながら、私の頬に触れた。
