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花と時計

第3章 微睡み



“彼”は、相も変わらず艶やかに揺れる“花”に、星を脱出するための機械を発見したと伝えた。

「俺はこの星を出ていく」
「馬鹿な人ね」

“花”は揺れる。

「どうして貴方があたくしを捨てられて?
あたくしがなければ、貴方は死んでいたのよ」
「当時の俺はもう死んでいる」
「何故、貴方はあたくしを捨てようとなさるの」
「捨てようとはしていない。
俺は美しい始まりを迎えたいのだ」
「終わりある始まりより永遠の方が美しいと思わなくて?
あたくしと共に生きて、永遠を叶える方が、ずっと美しいと」

“花”は、笑う。
ゆぅらゆぅら。

「選ぶほどでもないでしょう?
ふたつにひとつ。
正解もまたひとつ」
「永遠が美しいと君は言う」
「終わりがないのよ」
「ならば、尚のこと。
俺は真の永遠を選ぼう」

“彼”は告げる。
かつて見た、光のように。
義務的に、本能的に、燃えるように。

「星も花も人も始まりがあり、終わりがある。
だから美しく、永遠と呼ばれるのだ。
終わりを望まぬ君は醜く、偽りの永遠にすぎない。
君をおいて俺は行く。
真の永遠に生きるよ」

“花”は震える。
艶やかな花弁に、朝露をのせて。
震える。溢れる。散っていく。

「馬鹿な人ね」

狭い機械の体内で“彼”は、時の心音を聴く。
再び“花”と巡り会うまで、心音は歌い続けるだろう。
窓の外の暗闇の、滅びた星は光り輝き、終わりへの新たな始まりを迎える。

嗚呼、美しき永遠よ。



-暗乃雲・著
『花と時計』終


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