テキストサイズ

花と時計

第1章 心の殻



お前はブスだ。
特にその目が気に入らない。
そんな目で人を見るな。


それは、記憶している限り、私が母にかけられた初めての言葉だった。
理由は知らないけれど、母は私の顔、特に目が大嫌いなようだった。
母は私の目が隠れるように、髪を伸ばしておくことを強いた。
おかげで、幼い私は酷いいじめを受けた。
いじめられたと泣けば、母はうるさいと怒鳴り、私を叩いた。
幼いながらに私は、自分の運命が他の子どもたちと違うことを知り、どうして私だけなんだろうと、神様を呪った。
そんなある時、ふと、思考がかちりと音をたてて入れ換わった。


私の運命は他の子と違う。
それはとても素敵なことで、私をいじめる子や母は、私を羨ましがっているんだ。


今思えば、肉体的・精神的ショックから逃げるための、目隠しだった。
だけど、それをきっかけに私は、特別な運命を握るこの心を守らなければと思い立ち、心を守る殻を築き上げていった。

そうして気がつけば、私の心は磐石な殻に包まれ、悪意ある言葉も視線も、私の心には容易に侵入できなくなっていった。

今まで泣いたり怒ったりしていた私が唐突に人間味を捨てたからか、周りの子たちは飽きたふりをして、私を不気味がり、私から離れていった。母もまた同じで、恋人ができてからは家を空けがちになっていった。

中学にあがると、私のことを知らない子たちが私をいじめようとしてきたけれど、すぐに私を不気味がり、離れていった。


この殻があれば、私は無敵。
誰にも平穏を脅かされない。


心を閉ざして初めて、ようやく、私は、肉体的にも精神的にも、平穏を手に入れることが出来たのだった。



だけど、それは、今まで向けられてきたものとは違う言葉によって、あっけなく崩れ去ることになる。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ