
花と時計
第4章 夢
「先輩」
呼んでも反応はなかった。
バスの中に、乗客は私たちだけだ。
私は、そっと彼に顔を近づけた。
花のいい匂いがする。
私は彼の口の端にキスをした。
すぐに離れて、彼が起きないか窺ったけれど、とても深く眠っているようだった。
「先輩、もう着きますよ」
学校前のバス停が近づき、私は先輩を揺すり起こした。
「んん?」
彼は目を擦りながら、車内を見渡して、私を見る。
「俺、寝てた?」
「はい」
「そっか。じゃ、あれは夢か」
「どんな夢ですか?」
尋ねた私に、彼は眠たげな微笑みを浮かべて答えた。
「誰かが俺にキスしてくれた」
ドキッと心臓が跳ねる。
まさか。
バスが停車して、私達はバスを降りる。
「だ、誰ですか?」
背徳心を募らせる私をよそに、彼は肩を竦めた。
「さあ?
暗くて見えなかった」
ふ、と、彼は息を吐くように笑い、私を試すように見つめた。
「残念だな」
