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花と時計

第5章 花言葉


その日、学校は新しい噂に色めき立っていた。

話を聞く限り、2年生のある女子生徒が中退したそうだ。


理由は『妊娠が発覚した』から。


まあ、ここまでなら、珍しいけれど、ありえない話じゃない。


みんなが話題にしているのは、その彼女が夢咲先輩とよく一緒にいたということ。
今朝、先輩が生活指導の先生に呼ばれているのを見た生徒がいたこと。

この二つを合わせて導かれる、下品な予想だった。


残念ながらありえないと言い切れない。


私は、先輩が見知らぬ美女と友人以上の関係の上で成り立つスキンシップをとっているのを見てしまっているから、余計に。


全て尾ひれがついた噂だと思っていた。
だからこそ、先輩は退学にならないのだと。

だけど、とも思う。

もし全ての噂が真実だとして、先輩は実に上手く立ち回っていたわけだ。

そんな彼が、後輩の女子を妊娠させるなんて下手な真似をするだろうか。

私は何度も見てきている。

笑顔を、言葉を使い分けて、人を転がす高嶺の花。
自由で自信に溢れているからこそ出来る計算をしながら、彼は生きている。


私が憧れて、焦がれている夢咲聖は、そういう人間だ。

だけど。

違うの?


私は不安になった。
私の憧れが、崩れようとしている。

自由の象徴を得て、溶けてしまった心の殻の代わりになっていた、先輩への憧れが。

噂の真偽はどうでもよくて、私は先輩に会いたくて仕方がなかった。


結局、私は、その日の授業内容を全て受け流して、一日を終えた。

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