
花と時計
第5章 花言葉
先輩は、学校の敷地の端にある庭園がお気に入りなのだと言っていた。
それを思い出した私は、寮に帰ろうとした足を庭園に向かわせた。
黒い鉄柵に囲われた庭園は、さながら貴族のそれのような、厳かで入ってはいけないような雰囲気を出している。
鉄柵の扉のアーチには、百合と薔薇を象った模様が施されている。
百合の花言葉は、純潔、荘厳さ。
薔薇は、愛。
私は柵の間から庭園を覗いた。
舗装された遊歩道に沿って、種類ごとに分けられた花が、その両脇を彩っている。
不思議だなと思った。
梅雨が終わり、夏の始めのこの時期に、全ての花が咲いている。
時期じゃない花ですら。
何か特別なことをして、開花時期を統一しているのだろうか。
それとも造花?
だけど、私を誘う香りは、確かに生きた花のものだ。
あれ?
この匂い……。
