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花と時計

第6章 I fall in love with unknown


心臓が痛んだのは、気づかされたからだった。

不幸をいいように解釈して、分厚い殻に閉じこもって、他人を拒絶して。

結局、私は逃げただけ。
私を救ってはいない。

それと同じだ。

先輩のためといいながら、自分の傍に置こうとするだけで、具体的にどうしてあげるかは考えていない。

愚かで弱い、私の甘さに。
気づかされた。

目をそらす私を、楽しげに、愉しげに、彼は笑った。
掴んだ手がするりと抜けて、私の横顔に触れる。

「俺のこと、いっぱい考えて。
いっぱい傷ついて。
いっぱい悩んで。
それで」

首筋へ下りてきた手が、私の首を軽く掴んだ。

「依子は死んでくれるの?」

冷気はいつの間にか悪魔的な色に変わって、私を蝕む。

「わ、私、は」

悩んではいけない。
わかっている、のに。

声がでなくなった私を、花の香りが閉じこめる。

首筋にひとつ。

濡れた音をたてられただけで、私の体は彼のものになってしまう。


恐ろしくて閉じた口は、キスの魔力で開かれる。
歯の並びを舌でなぞられると、閉じた目が開いてしまう。


快感?
ちがう、もっと相応しい言葉があるはずだ。


もっと、もっと……。

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