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花と時計

第6章 I fall in love with unknown


「先輩は傷ついています」

「どうして君に分かるんだろう。
俺はそんなこと思ってない」

「麻薬と同じです。
体はもうボロボロなのに、気持ちがいいから知らないふりをしてる」

「ふりなんて」

乾いた笑いを漏らしながら、よそに顔を向ける彼の手を、私は掴んだ。

「先輩、私はあなたを助けたいんです」

私の話を聞いてほしい。
だけど、彼はうんざりしたように息を吐いて、しかめた顔を私に向けた。

「俺は、夢の中でしか生きられない。
取り上げられたら、俺は終わる」

「私が終わらせません」

「君の夢だけじゃ足りない」

「じゃあ、私はどうしたら」

「俺は君の夢。
君は俺の居場所。
それで十分だろ」

「私は」

「『先輩の特別になりたい』?」

言葉を先読みされ、私は息を止める。
視線の交錯。

冷ややかな怒気は、私を凍らせる。

「依子は随分エゴイストだね」

「え……」

「自分も救えないのに、どうやって俺を救う?」

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