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堕ちる

第2章 エピローグ

実家の玄関を出、門を潜り抜けたところで、ふと江藤さんが立ち止まった。

「どうかしましたか?」

「うん。私のこと、どう思ったかなって……」

「どうって、喜んでくれてたじゃないですか」

僕の両親は、江藤さんのことを快く迎え入れ、食事や話をしている間も終始和やかで、そして結婚することを歓迎してくれた。

それは、江藤さんもわかっているはずだった。

「そうだけど、私は平凡な家庭の産まれだし、心の中ではあまり歓迎されてないじゃないかなって……」

「そんなことないですよ。父さんも母さんも、江藤さんのことは、心の底から気に入ってくれてましたから」

「本当?」

「はい」

「よかった」

言って、江藤さんがそっと僕の手を握った。

その、左手の薬指には、稀少な天然のピンクダイヤモンド──それも最高ランクのものを使ってつくられた、婚約指輪がはめられている。

婚約指輪こそ奮発したが、あとは特別、江藤さんにお金をかけることをしていない。

江藤さんが、それを望まないのだ。

「ね、真一。ところでなんだけど、そろそろ、その堅苦しい話し方、止めにしない?」

「すみません。ついクセが抜けなくて。それにこの話し方じゃないと、上手く喋れないような気がして」

僕が照れながら言うと、江藤さんはクスクスと笑った。

「まあ真一らしいけど……でも、せめて名字じゃなくて、莉菜って、名前で呼んでよ。結婚したら、もう江藤じゃなくなるんだし」

「そう言えばそうですね。じゃあこれからは、莉菜さんって呼ぶことにします」

相変わらず『さん』付けは抜けない。

それがおかしいようで、莉菜さんはケラケラと笑った。

「ほんと、昔っから変わらないね、真一は」

「そうですか? 僕は莉菜さんとつき合うようになって、だいぶ変わったと思うんですけど」

「そうかな?」

「そうですよ。まあ、莉菜さんほど変わってはいませんけど……」

「あっ、ちょっと待った。その話はおしまい」

焦ったような、照れたような様子で莉菜さんは言い、口を塞ごうとしてくる。

僕はそれをかわそうとして、つい揉み合いになってしまった。

二人の体が絡み合う。

僕達は、どちらからともなく口づけを交わした。

暗い夜道。

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