ほんとのうた(仮題)
第5章 騒々しい景色の中で
「オ、オイ……なんだ!?」
ドンと胸を突かれて、俺は身体のバランス失った。縺れ加減の脚が何かに取られた流れで、ドサッと背中より倒れ込む。身体を包み込むような感触で、ベッドの上に倒れたことはわかったのだが……。
「ま、真……?」
仰向けになっている俺の上に、彼女はそっと跨るように乗る。
「……」
暗闇の中で微かな瞳の光が、俺を見降ろしていた。
その状況をベッドに押し倒された格好と知りながら。俺はとりあえず無駄の様な気がしつつも、こんな風に言ってみるのだ。
「さあ、悪ふざけは済んだか? ホラ、どいてくれ」
「ううん、どかない。この悪ふざけは、これからが本番だから」
そう答えた真の顔が、すうっと近づいているが気配でわかる。垂れ下がった髪は、ふわりとして俺の頬を撫でつけている。
その距離にやはり焦ると、俺はまるで時間を稼ぐように言葉を連ねた。
「そ、そうは言っても、これから夕飯だって作らなくちゃな。お前のことだ。すっかり腹が減った頃だろ?」
しかし――
「後でいい」
真は端的に、その意志を伝える。そして、もう吐息を感じる処に在る唇で、更にこんなことを言った。
「私の身体って、ね。その瞬間の欲望に正直に反応するよう、できてるみたい。だから今は、お腹は減らない。他に欲しいものが、あるから――」
「……!」
それを言い終えると同時に、俺の顔に真の顔が近づく。
――が、その時だった。
プルルル、プルルル――。
こんな時に限って、と――俺は半ば呆れて、ため息を吐いた。
邪魔者の正体は、部屋に鳴り響いた電話の音。
俺はとても「面倒だな」と感じながらも、一方ではやはりホッとしていたのかもしれない。
【第六章へ続く】