ほんとのうた(仮題)
第6章 お気楽、逃避行?
だから俺は、その神々しいまでに魅惑的な果実を、口にすることを拒もうとした。その判断は至極、正しい。味わってしまったが最後、俺はその味を一生忘れることなく、残りの人生を想い出に浸って過ごすのかもしれない。
それを惨めと思い、俺はとても怖かった。
その前提に立ちかえれば、なにも悩む必要なんてない。俺は太田に従い会社に戻り、真にも騒ぎがこれ以上加熱する前に、在るべき場所に帰ってもらうしかない。
今なら真だって素直に従うだろう。俺なんかと一緒に時を潰すより、その方がよっぽど彼女のためなのだと思えた。
真はそんな俺に失望するだろうが、それは仕方がないことと受け止めるしかない。どの道、俺が彼女の力になるなど、土台無理な話。初めから、その程度の男である。それなのに今更、そんな自分になにを期待できようか。
只、全てを元に戻すだけ。それが悪いなんて、誰も言いはしないさ……。
「なあ……真」
俺が座り直すと、真もそれに向き合い話を聞こうと姿勢を正した。
「なに……オジサン?」
さっきまでの心許ない表情を潜め、真は穏やかな微笑みを浮かべる。まるで俺の考えていることを見通しているかのように。おそらく、俺が今後のことをどのように決断しても、例えそれが望む形でなくとも、真は受け入れようとしている。
「なあ……俺なりに、考えてみたんだが」
「うん……」
「やっぱり、俺たちは……その……あまりにも色々と、歳も生き方も、考え方だって……全然、違ってるからさ」
「だよね……」
「だから……お、俺は……真を……」
「私を……?」
そっと小さく首を傾げ、真が俺の言葉を待つ。