ほんとのうた(仮題)
第7章 二人の時間(とき)に
随分と古くなった建物は白い壁がくすんでいて、とても高級なホテルとは言えそうもなかった。
ともかく、フロントにて部屋を取ろうとする際のことだ。
「部屋は二室? ――だよな。うん、当然だ」
迷いを表すように、思わずそのような独り言を口にした。すると――
「あのさぁ……一週間も同じ部屋で暮らしといて、今更なに言ってんの?」
「いや……だが、一応は」
「ひと部屋でいいよ! お金だって、もったいないじゃん」
「まあ……そうか?」
結局は真に圧されるまま、二人は同じ部屋で泊まることになった。
真の言うことはもっともであるように思えるが、やはり環境と状況が変化したことにより、俺の中に妙な意識が生じてしまうのも仕方がないものと思われ。
結果として部屋を共にすることとなった、この夜。昨夜までの流れを踏まえた上で、それがなにを意味するのか。
俺がこんな男であっても、それを惚けてやり過ごすことはできそうもなかった。
その後、ホテルの夕食の時刻まで少し間があることもあって、海を見たいという真に付き合うと十分ほど徒歩で道を下り岬の脇に小さく広がる砂浜へと赴く。
晴天だった一日を象徴するように、落ちかけた夕陽は程広く海面にオレンジ色の輝きをゆらゆらと伸ばした。
水平線を行き交う漁船の船影が、まるでそれに溶け込むように淡い。
「うわぁ、綺麗……」
波打ち際で寄り添うように立っていた真は、感慨深げにそれを見つめると、自然と漏れ出たようにそう呟いていた。