ほんとのうた(仮題)
第7章 二人の時間(とき)に
夕陽に向けていた視線を、俺は何気に真のその横顔へ。一心に景色を見つめた大きな瞳は、驚いてしまうほどに印象的だ。
心の奥底を垣間見せるように若干の揺らぎを涙の膜に伝えると、それが今にも零れ落ちてしまいそうに何故か危うくも思わせ。
そうでありながらも美しい夕陽の光景を一点に映し取ったかのように、鮮烈なまでの無垢な光をその最中に宿している。
そして――
「オジサン……」
ふと、そのふたつの瞳を、真は俺を見つめた。
「真――」
俺は自然とその名を、いつになく愛しげに呼ぶ。そして意思の流れに身を委ねて、そのまま顔を近づけていった。
と、その刹那――。
真は口元を、にっ、と綻ばせて――。
「えいっ!」
「え? なんで――」
真に胸を強く押され、俺はバランスを大きく失い――その結果。
ザブン!
俺は寄せて来た波に腰を下ろすように、派手に尻餅をついてしまった。
「つ、冷てえ……」
俺は正しく、海に浸かった時の感想を述べている。そりゃあ、そうだ。
真夏と呼ぶにはまだかなり時期尚早であるように思われる、それも夕刻。もちろん俺は、ここへ海水浴に来たつもりはなどないから。
あれぇ……さっきまでのムードは、一体?