ほんとのうた(仮題)
第7章 二人の時間(とき)に
「それは流石にご遠慮いたしますが……。しかしながら至ってノーマルな男であります故、その技で果たしてお嬢様の好奇心を満たすことができるのかと、少々不安を憶えている次第です」
「アラ、失礼ね。それでは、まるで私が変態みたいなの、ですけれどもぉ――?」
明らかに妙になった語尾に、真は自ら照れたように小首を傾げた。
そんな下手すればうすら寒いネタに俺が乗じるのは、心の奥底に一抹の不安があるから。
こうして軽口を利いてる内は、まだ確認できる。我を保ち、決して溺れてしまってはいけない――と、その想いの意味は、あってないようなものだ。
だが、それは――自身の中に画した、最後の一線であるように感じる。
俺がある程度、身構えるのはそうした心理だが、一方で真の方も単に楽しみじゃれようとしているようにも見えない。
「フフフ――オジサン。やっぱ私、違うみたい」
「違う?」
「そう、最初の時とは違う。私――今ね。私が知ってるオジサンに抱かれたい――そう思ってるんだ」
「そうか」
たった一週間足らず。それでもその期間は、少なくとも俺たちの関係を築き始めている。
そして、行為へと赴く前――真は最後に、それを訊ねていた。
「ねえ――私のこと好き?」
些か虚をつかれ、俺は暫しの沈黙。
それを暫し受け止めて、なにかを思ってから逆に問う。
「その言葉が――必要だったのか?」
真はそっと微笑むと、頭を振った。
長いのか、短いのか――それは、わからなくとも。
とにかく、この夜はそうして――とりあえず、始まってゆく。
【第八章へ続く】