ほんとのうた(仮題)
第8章 身体を求め、精神(こころ)を探して
「お前は、どうなんだよ?」
「私? 後悔なんて、そもそもしたことがないから」
ふっ――と、俺は笑みを漏らす。正にそんな感じだと得心した。
「ねえ――オジサンは、どうして一人なの」
「ん――?」
「結婚とか、考えたことなかった?」
「どうかな。その内にするんじゃないか、くらいには思ってたんだろ。だが結局は、ご覧の通りザマってわけだ」
「いい女(ひと)が、いなくて?」
「さあ……というか、単にモテなかった。そんなところだろう」
「それは、嘘だね」
「どうして?」
そう訊き返しながら、顔を向けると――
「だって――」
真は言いながら、スッと身を寄せ「ちゅっ」と音を慣らし、軽くキスをした。
「そうでなければ、私をこんな気持ちにさせてない――でしょ?」
「……!」
俺は思わず出かかった言葉を、ぐっと飲み込む。
それは、どんな気持ち――?
そうやって問うのは、余りに無粋に思う。それでいて、おそらくは無意味だった。
だが、それでも。この一時は、とても心地よく思える。俺にそう思わせてくれたのは、やはり真なのだ。
だからこそ、その部分に深く分け入ることはしない。したくなかった。
俺も――たぶん、真も。
ともかく俺たちの間に積み重ねられていた、新たな関係。しかし、俺は失念してはならない。これには必ず終わりが付き纏う、ということを。
そして、それが存外に早いのだとういことを、俺はすぐに思い知らされるのだった。
終わりへのカウントダウンを告げようとしたのは、一本の電話からだった。
【第九章へ続く】