ほんとのうた(仮題)
第9章 対峙して
「見ての通り、当方も大概に大人ですからね。例えば、対立する二人がいた場合に――どちらか片方の話だけを盾に、物事を見通そうなんて考えていませんよ。できれば双方の話を聞いた上で、その中間に漂うであろう真実を想像してみるくらいは――」
「対立する二人とは――私と真?」
「あ、いやっ――あくまで、例え話で」
「いいんです。今回の一件においても、それが原因であるように報じられていることも承知してます。なにより、真自身が私のことを良く思っていないことも……」
俺はその寂しげな顔に、なにか秘められた想いを察した。
「なにか行き違いがあるなら、話してみませんか。まあ、俺が真の味方であることは、変更できませんけども」
「フフ――」
と、不意に笑われ。
「……?」
俺はそんな彼女を、意外そうに眺めた。
「失礼――どうやら貴方は、単にあの子に懐柔されているのとは違うようです」
表情を和らげ、上野さんは真も知らないその想いを語り始めた。
「私の夫――真の父の死は、私たちとって正に青天の霹靂となりました。仕事先で倒れたとの一報を受け、私が病院に駆け付けた時には、もう……」
「……」
「当時、呆然自失であった私が、その後にどうやって夫の葬儀を執り行ったものか……。それすら、未だ記憶が定かではありません。きっと、只、粛々と……恐らくは、自分の気持ちを整理するので、精一杯だったように思います」
その死については「急病」であるとだけではあるが、真の口からも聞かされていた。真がデビューのチャンスを掴もうとしていた、そんなタイミングであった――と。
その当時を思い出してのことか。酷く憔悴したように見える彼女の言葉には、偽りが割り込む余地はなかろう。少なくとも突然の夫の死を前に、悲しみに暮れたであろうことは、察して余りある。
「自身がそうであったことで、情けない話なのですが……。私がようやく真のことを気にかけることができたのは、告別式の少し後のこと……」
「その時の――真の様子は?」
と、俺は訊ねた。