ほんとのうた(仮題)
第9章 対峙して
「ですから、先程のお願いの件――私の方で承知いたしました、と」
上野さんは言いながら、免許証を俺に返そうとしている。
「あ、あの……いいんですか?」
「はい。私も新井さんを、信頼してみようと思います」
「いやぁ、それは恐縮なんですが。しかし、また――どうして?」
余りにあっさりと承諾した、その態度を不思議に思う。
それに対し上野さんは、当初とはまるで違う柔らかな表情で言った。
「私は今日まで、天野ふらのをメジャーにしたい、その一心でした。それが彼女のためでもあると、そう信じながら。でも、いつの間にか大事なものを、見失っていたのかもしれません。そして、それを見つけてくださったのが、たぶん貴方なのでしょう」
「いや……どうなの、かな?」
そんな風に言われると、まるで自信などないが。ともかく、これで――
「あと、三日。真のことを、どうかよろしく」
俺に残された猶予は、あと三日だ。
【第十章へ続く】