ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
はあ……はあ……畜生!
駅前のカフェよりシアターまでの道のりを、息を切らせつつも俺はその道中を駆けた。どうでもいい話だが、久々に長距離(といっても、1キロ未満だが)を走ったことで己の体力の低下を思い知っている。
真と行動を共にしていると、自然と年齢を意識させられてしまうケースが多いらしいな。今更ながらに、そう思った。
「ん?」
シアターのエントランスの片隅に設置された公衆電話。その付近に辿り着き周囲を見渡すが、真の姿が見えない。というか、平日のせいか或いは上映中のためか、近くには誰もいなかった。
「アイツ、どこ行った……」
やや焦りを覚え、そう呟いた時だ。
「あれ、オジサン――もう、来てたの?」
背後からの声に振り向くと、階段を下って来る真が言う。その先にフードコートでもあるらしく、手にしている小振りな花束の如きクレープを貪り歩いて来た。
「来てたの? ――じゃねーだろ! 10分で来いっていうから、コッチは必死で」
「ああ、そんなの適当に言っただけなのに。やっぱ、オジサンの世代って、妙に律儀なのね」
「あのな……」
俺は披露と軽い頭痛に、襲われる。
そんなもん、世代のせいにされてたまるかよ……。お前の人を振り回す性格が、全ての元凶だろうが!
と、そんな風に毒づけば、ふと忘れてしまいそうになる。真とこうしていられるのも、あと僅かであるということを――。
「用事は、よかったの?」
と、あっさりと訊かれた。
その気遣いが僅かでもあるなら、あんな急き立てるような電話してこなけりゃいい……。
相変わらず、その精神構造がイマイチ把握できない。今の若い奴らが全部こうなのでは、と思いふとこの世の行く末を憂いてみるが、おそらくそんなはずはなかろう。
きっと、この女が特別にフリーダムなだけだろう。