ほんとのうた(仮題)
第10章 想い、知らされて
真は口元をクリームでコーティングしながら、モグモグとクレープを食している。返事を待ちながら、曇りのない両の瞳で在るがままに俺を見つめていた。
「まあ、なんとか……」
そう答えながら、吸い込まれそうな瞳を見返す。そうしながらも脳裏では、駅で別れた際の上野さんとの会話を反芻している。
「今日、聞いた話を俺から真に話すことはないでしょう。貴女と会ったこと自体が秘密ということもありますが、真が帰ったら一度二人でよく話し合うべきだと思いますので。最後に、それだけお願いさせてもらいますよ」
「わかりました。私も、そのつもりでいます。だけど、少しだけ不安ですね……」
「どうして?」
「母親とのことは、やはり私の心に止めておきたいと思っています。その上で話し合ったとして――果たして、あの子が私に、新井さんのせめて半分でも心を開いてくれるでしょうか……」
上野さんは胸に手を置き、心許なげに話していた。
「それは、大丈夫ですよ」
「え?」
「アイツだって、聞く耳を持たないわけじゃない。酷くマイペースですがね。それと、人を見る目は確かだと――そうは思いませんか?」
これは口にしていながら、気恥ずかしくなるくらい手前味噌なセリフだった。自意識が炸裂気味であり、本来の俺の流儀ではなかった。
それを臆面も見せずに言ったのは、彼女の不安を少しでも取り除くためであり――。
「ええ、本当に」
上野さんも(一応)納得してくれたようなので、まあ良しとしておこうか……。
ともかくこれで、少しは真を取り巻く環境も変わるのだろう。否、ほんの些細なことであれ、変わる切っ掛けにはなるはずだ。そして、もちろんそれは事務所の代表であり義母でもある上野さんの役割である。
だとすれば、俺の果たすべき役割とは――。
「さて、じゃあ行くか」
「うん。そうだね」
真を伴い歩きながら。
さて、何処へ――?
と、そっと自問してみた。
俺が真とこうしていられるのは、あと三日だけ。