ほんとのうた(仮題)
第11章 頼むから
「はああっ……」
携帯を持った右手をダラリと下げ、俺は胸の奥から深いため息を吐く。
ああ、くっそ! マジで、心底面倒だ……。
一応はこちらからお願いしてる形ではあるが、当然ながらこの俺がそれを望むはずもない。そうしてまで約束を漕ぎつけている割に、果たしてなにを話そうかと具体的な考えがまとまっているわけでもなかった……。
実際にそれは、出たとこ勝負だろうと思う。親父の顔を見て、俺自身がなにを話したくなるのか、それはその時までわからなかった。
そうまでして俺がやろうとしてるのは、端的に言えば『筋を通す』ということになる。真に「逃げるな」という以上は、まずそう言った俺の方が逃げてはいられない。理屈としては、かなり明解な仕組みだった。
只、俺が長年背を向けてきた親父と顔を合わせることが、『逃げてない』ことの証明になるかどうかは不明だ。それを見た真が、どう思うのか。と、それ以前に、そんな場面に立ち会うことに意義を感じてもらえるかさえ、全くの未知数なのだ。
「やはり、俺の独り相撲か……」
見通しの立たない明日の方向を眺め、俺は力なく呟く。
それでも、これは通過儀礼だ。そう信じて、浮かない気持ちを無理にでも、駆り立てるより他はないのだろう。
とりあえず――今は。
部屋の前、隙間から灯りの洩れるふすまを、俺はそっと開いた。
「……」
出て行った時と全く同じ。そんな背中が、部屋の片隅にポツンとしている。