ほんとのうた(仮題)
第11章 頼むから
やれやれという顔で、それと少し距離を置いて腰を下ろした。座机の上にある湯呑を片手に、冷めたお茶を一口、ぐっと喉に流す。
それから――
「ちょっとだけ、言い訳をしてもいいか」
「……?」
真は無言であったが、その耳を欹(そばだ)てていたのが、わかった。
その様子を眺め、俺はゆっくりと話を始める。
「もう、ずっと昔の話になんだが――」
「……」
「俺がまだ学生だった頃だ。当時の俺は、同じ大学の同期生と付き合っていたんだが――」
「……」
「あれは調度、俺が四年生になる少し前。その彼女が大病を患って入院したのは――そういうタイミングだった」
真が徐に振り向き、俺と顔を合わせて――
「大病……って?」
と、真はようやくその口を開いた。
「医者は手術が必要だと話したが、それで助かるとは言わなかったよ。よくて、五分五分……元々、彼女の身体が弱かったことを考え合わせれば、確率はそれよりも随分と低かったはずだ」
俺も淡々とした口調で、その疑問の一部に答えた。
「それで、オジサンはどうしたの?」
「ああ、それがな……」
俺は自然と遠い目をして、その時の情景を思い浮べる。その時のことは人に語った覚えもほとんどなく、青臭い当時の自分の姿が蘇るようでもあり、どこか気恥しいのだと思えた。