ほんとのうた(仮題)
第12章 城崎家の人々
庭園を横に望みながら廊下を奥へと進み、俺たちは奥まった座敷へと案内された。
「どうぞ、こちらです」
襖が開かれ、そこで俺たちを待つ――まず、その幾つかの視線が、鋭く刺さってくる――ようで。
座敷の中には、確かにピリッとした緊張が広がっていきつつあった――が。
いの一番に声を発したある人物によって、その空気は一旦緩和されることとなった。
「アラ、本当に裕司だったのね。随分と久しぶりだけれど、元気にしていたのかい?」
無駄に広い座敷の正面、彼女は親父の隣りに座っている。長らく合わぬ間に、髪こそ上品なグレー色へと変貌してはいたが、どうやらその度を超えて呑気な性格はあまり変わってなさそうだ。
俺はまず、その顔のみに向けて挨拶を口にしている。
「ああ、ご無沙汰だったね、母さん」
「まったくねぇ。こうして顔を合わせるのは、かれこれ五年振りになるのかしら?」
「いやいや……婆さんの葬式の時以来だから、もう十五年も前だよ」
その感覚のあまりの誤差に、俺は思わず苦笑を交えた。
「アラアラ、もうそんなになるのね。それにしても裕司、その間に一度も連絡よこさないだなんて、随分と非常識だとは感じていないのかい?」
「え、ああ……うーん、そうかな」
俺は答えようもなく、ポリポリと頭を掻いた。