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ほんとのうた(仮題)

第12章 城崎家の人々


 お袋の頭の中では、俺と親父が喧嘩別れしてることを、一体どの様に咀嚼されているのか甚だ謎である。

 元々前会長の一人娘として、蝶よ花よと育てられた世間知らずの一面を持つ。変に身についてしまったお嬢様気質と、持ち前のおおらかな性質とか掛け合わさって、実に珍妙なバランスで人格が形成されてしまったのが、俺のお袋という人であるのだ。

 まあ、相変わらずのすっとんきょうだが、お蔭で緊張は幾分と解させてもらった。

 などと表情を緩めるのも、束の間のこと。

 ――ゴホッ!

 これ見よがしの咳払いが、只ならぬ内心を顕わにするように――呻る。

「てっきり野垂れ死んだのかと思っていたから、こうして顔を合わせる機会があるとは考えてなかったぞ。その辺りのことを、そっちはどう考えているのだ――ええっ、愚弟よ」

 と、いきなりその様に言われ――

「久しぶりだっていうのに、また随分な御挨拶じゃないか――なあ、クソ兄貴!」

 俺も、そんな言葉で応じた。

 アイドリングなしの辛辣な応酬が、不思議とどこか懐かしくさえある。最も感傷に浸るようなものとは、180度ほど異なるが……。

 城崎揮市――ずんぐりとした体型は、間違いなく親父譲りで、それよりも一回り程でかい。俺より五つ年長の兄貴とは、昔からあらゆる場面で衝突を繰り返していた。

 と、そんな風に言えば、やや語弊がある。学生の時に柔道をやっていたこともあり、身体的な意味でも俺の方がかなり一方的にやり込められたものだった。

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