ほんとのうた(仮題)
第12章 城崎家の人々
真がそう訊いたのは、彼女の席が用意されていないからではない。彼女を連れてくることを事前に拓実の方に話してもいないのだし、それは当然であった。
それでも、本来『肝の座ってる』彼女をして、そんな風に不安を抱いているのも、それはその場の刺々しいバイブス(雰囲気)によるのだろう。
俺の背中に隠れ目立たぬようにしている、とはいえ。真の存在は、既にここに居る全員によって認められたはず。順繰りに向けられている好奇の目線が、十分にそれを示していた。
それなのに、その上で――傍観、或いは黙殺していた。
「……」
それが、どういった意図からなのか、俺はなんとなく察してみようとする。おそらくここに集った連中は、等しく俺の話をある種の『厄介事』として捉えている、ということ――ならば。
未知なものに、下手に障らない。すなわち真の存在を気にしながらも、とりあえず俺がどう出るのか、様子を見ようとしているようだ。
相変わらずのタヌキだな――。
暗黙の内にその意を束ねているであろう、その男に俺は初めて視線を向けた。
「……」
親父は腕組みをしたまま、眉間に皺が寄った両の眼を閉じる。まるで居眠りしてるようでもあり、しかし微かな音にもピクリと反応しそうな、でかい耳たぶの耳を持っていた。
そんな佇む姿すら、無言のままに――今も俺を圧迫してゆくかのようで。