テキストサイズ

ほんとのうた(仮題)

第12章 城崎家の人々


 はっきり言って、この男とは反りが合わない。どこがどうというわけでもないが、親父に似すぎているということだけで、俺の方の理由としては十分過ぎるのであった。

「それにしても、老けたよな――兄貴」

 ギラギラと油の乗った浅黒の顔には、かなり深い皺が刻まれている。M字を描く生え際も、親父と全く同様に後退しつつあった。

「フン、ぬかせ! お前とは違い、長年重責を担ってきた証だ。自然と責任というものが、この顔に刻まれてゆくもの。まあ、勝手気ままな無責任な次男坊には、わかるまいよ」

 そう皮肉を言い、輝市は俺の顔をギロッと睨みつけている。

 長男と次男との間に散った火花に、困惑して割って入ったのはこの席を設けている三男だった。

「まあまあ、少しは二人とも冷静に。裕司兄さんも、とにかく席に座って――」

 拓実が宥めようとして、そそくさと立ち上がる。

 俺たちを案内して来た仲居がそれを見て、ホッとしたように声をかけた。

「あの――お料理のご用意は、どのようにいたしましょう?」

「まだ結構です。改めて声をかけますから」

 拓実がそう答えたのを聞き――

「――承知いたしました」

 仲居が座敷をあとにして、襖がパタンと静かな音を鳴らした。

「……」

 空間が密閉されたことにより、ぐっと息苦しさが増す。その居心地の悪さを覚えながら、俺は拓実に指示された席を見やる。

 正面に親父とお袋が鎮座し、向かって左手に揮市夫妻、右手に拓実夫妻――その六名に取り囲まれるようにして、入口のある手前。

 『逆・お誕生日席』とでも呼称したくなる位置に、俺の席は用意されていた。

 ホント嫌な感じだ。被告人かよ……俺は?

 内心ではそんな悪態をつきながら、しかし逐一、その程度のことを気にしているわけにもいかない。ある程度の悪意はあって然るべきなのだ。そのくらいの覚悟はしている。

 だから、俺が気になったのは他のこと。連中の態度には、明らかに妙な点があった。

「えっと……私、いいの?」

 背中に寄り添った真が、そっと耳打ちをしてくる。彼女自身がその違和感を、正しく感じ取っていたようだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ