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ほんとのうた(仮題)

第12章 城崎家の人々


 今この時、俺は親父と話しているのであるから、それ以外のことは左程気にならなかった――が。

 しかし、その妻たちまで口を挟むようになると、流石に彼らの会話は謀殺し難いものになろうとする。

「拓実さん、仕事を紹介すると簡単におっしゃるけれど――それ以前に、色々とお考えになることがおありでしょう?」

 そう怪訝そうに発言したのは、兄嫁である律子さんだ。言葉は濁しているが、彼女の立場として憂慮することがあるらしく。

 その辺りをはっきりとさせようと、それに乗じたのが弟の嫁の香苗さんだった。

「あのぉ、お義姉さん。できれば、その『色々と』という辺りを、もう少し具体的にお話ししていただければ助かりますが……」

「そんなこと口にしなくても、ある程度は察しがつくでしょう?」

「いえ、すみません。生憎、さっぱりと……」

 香苗さんが愛想笑いを浮かべたのを見て、一回り以上ベテランの妻である律子さんは、呆れたように話した。

「もし仮に裕司さんが、城崎の家に戻ることにでもなれば――その後、どういうことになるか、想像してごらんなさい」

「ああ、なるほど……。それは確かに、なにかと問題ですね」

 香苗さんが、妙に納得して相槌を打った時だ。

 それまで一人、我関せずと静観していた人が、小首を傾げながらこう口を挟む。

「アラ――律子さんも香苗さんも。まるで裕司が帰って来てはいけないような口振りだけれど――?」

 お袋――城崎多恵(たえ)の他意のない指摘に、言われた二人もその顔を強張らせた。

「い、いいえ、お義母さま。私共は、別にその様なつもりでは……ねえ、香苗さん?」

「ええ、もちろんです……」

 シュンと態度を改めた嫁二人を順に眺め、俺は小さくため息をつくと膨らみゆく誤解をようやく正そうと口を開いた。

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